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第6章 和歌山営業篇 ブログトップ
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日本の美しさⅣ 2003年7月中旬 [第6章 和歌山営業篇]

 僕も子供の頃は、当たり前の風景だった。大学時代にアメリカで生活して初めて、その素晴らしさに気付いた。

 人は長年住んでいると、どんな景色も当たり前になる。その価値も、魅力も分からなくなる。そして何もない詰まらない町だと思ってしまう。どうすればいいのか?

 もしかしたら、僕がこの町で「ストロベリーフィールズ」を撮影し、その映画を見てもらえれば、日常とは違う視点で町を感じてもらえるのではないか? 

 僕が気付いたように、世界の観光地に負けない素敵な町だと分かってくれるのではないだろうか? 

 この町を舞台に映画を撮る意味は、そこにあるのではないか? そう思えて来た・・・。(つづく)
 

 第7章「東京死闘篇」へ=>http://t-ota.blog.so-net.ne.jp/2007-11-06-23
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日本の美しさⅢ 2003年7月中旬 [第6章 和歌山営業篇]

 ご老人は嬉しいそうに頷く。

 「監督さん。嬉しいです。ワシもよくこの町には何もないと言います。みんなそう言うので、ついそう言うてしまう。
 ホンマは素敵な町なんです。ワシはこの町が大好きなんですよ。

 でも、若い子らは、何もない。詰まらん。そういうて都会へ出ていきます。中には、この子は見所ある。いずれ町のために、がんばってくれるはずや。と思てたら大学で都会へ行ったまま、もう帰ってけえへん。

 何でか? 故郷に誇りが持てないんですよ。何もない町。つまらない町。都会へ出ても出身地がどこか。恥ずかしくていえない。
 でも、監督さんは、この町を素晴らしいと言ってくれて、嬉しかった。子供らもそれを分かってくれたら、ええのになあと思います・・」

 もの凄く感じるものがあった・・・。(つづく)


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日本の美しさⅡ 2003年7月中旬 [第6章 和歌山営業篇]

  我、古里にもそれがあった。中でも、あの夕陽。泣きたくなるほど感動的。あれはどの国のものより、素晴らしかった・・・。

 サンタモニカ、フロリダ、ハワイ。どの町へ行っても、サンセットには観光客が海辺に集まり、夕陽が沈むのを見つめる。沈み切ったときには拍手が起こる。
 それぞれの町の夕陽は、それぞれに美しい・・・・。

 でも、泣けるほど心に染みる夕陽は、この町の夕陽だけ。それを映画で撮りたい。見た人は必ず感動するはずだ。
 そう話すと、ご老人は嬉しいそうに頷いた・・・。(つづく)


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日本の美しさⅠ 2003年7月中旬 [第6章 和歌山営業篇]

 理解者と出会えたことで、希望が出て来た。その後も何人かとお話した。そんな中のお一人。あるご老人はこんな話をしてくれた。

 「この町はホンマに何もない町なんです。監督さん。こんな町で何を撮ろうというんですか?」

 そういう人は多かった。何もない町だとほとんどの人が言う。でも、それは違う。
ここには今も変わらぬ、昭和40年代の風景がある。日本人の誰もが懐かしいと思う景色がある。

 山と海。青い空。大きな川、たんぼ。伝統ある有名なお寺とか、絶景の観光地はないけど、どれも優しく心に染みる風景。忘れていた何かを思い出させてくれる。

 その貴重さをアメリカで生活して知った。ニューヨーク、ロサンゼルス、サンフランシスコ、フロリダ、ハワイ。いくつもの町を旅した。

 でも、そこで気付いたのは、アメリカのどこにも日本の田舎のような風景がないこと。それらは決して外国の観光地に負けない、素晴らしいものであることを自覚した。

 日本の地方。そこには欧米にはない「美しさ」があることを知る。それはわが故郷にもたくさあることを思い出したのだ・・。(つづく)


タグ:古里
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2003年7月中旬 応援を求めてⅦ [第6章 和歌山営業篇]

 紹介で訪ねた県内の会社。その社長も開口一番「映画はなあ・・」と言うが、地方映画の現状を聞いてもらった。

 最近は映画を使った地方のアピールが盛んなこと。さまざまな町が、映画で町おこしをしていること。尾道が大成功していること。

 広告料に換算すると数十億円もの効果があることから、多くの自治体がそれを見習い、フィルムコミッションを次々に設立。映画ロケ地の誘致を熱心に行っていること。

 その話を聞いて社長の表情が変わる。
 
「それはええことかもしれんなあ。不況でこの町も苦しい。農業、工業、商業、漁業、皆、やられてる。できるのは観光に力をいれることだけや。
 観光客に来てもろて、町に活気を取り戻すしかない。ちょっと考えてみるわ!」

 社長はそう言うと、明るい笑顔で微笑んだ・・。(つづく)


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2003年7月中旬 応援を求めてⅥ [第6章 和歌山営業篇]

 ある大手企業の会長を紹介してもらい、電話する。こう言われた。

 「映画だけはアカン。協力できへん。でも、完成してからなら支援してもええ」

 けど、映画を完成させる前に、製作費が必要なのである。説明を聞いてほしいと頼むが、会ってはもらえなかった・・。

 方向を変えて、町のフィルムコミッションを訪ねようと考える。が、町にはないという。県はどうかと問い合わせた(当時)が、やはりないと言われる。

 今、ほとんどの町にはフィルコミが作られているが、まだ全ての町と言う訳ではないのか・・。

 顔役の会長にお願いして、応援してくれそうな人を考えてもらった。そして、県内にある大きな会社の社長を紹介してもらった・・・。(つづく)

 


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2003年7月中旬 応援を求めてⅤ [第6章 和歌山営業篇]

 ある会社でははっきりと言われた。

 「映画だけはアカン。この町では映画は禁止や。誰も信用せえへん・・」

 でも、当然だと思う。映画人はまじめに作品作りをする人がほとんどだが、中にはいい加減な連中もいる。詐欺師に近いような輩もいる。

 「1億円づつの共同出資で、2億の映画を作りましょう!」と言って、相手の1億だけで映画を作ってしまう製作プロダクション。

 そんなところの奴ほど口がうまい。スーツにネクタイ姿で投資家を口説き、金を引き出すという。

 僕も酷い会社で何度か仕事をした。作品が完成してもギャラも払おうしない会社。あとになってギャラを値切ってくる会社。
 誤摩化しとウソと、隠し事ばかりのプロデュサー。ろくでもない人種がいる世界ではある。

 しかし、純粋に応援してくれた市民に対して、そんな態度で応えるなんて許せない。映画関係者を信頼できなくなるのも当然だろう。

 わが故郷で・・映画人が・・そんなことをしていたなんて、本当に悲しい・・。(つづく)
 


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2003年7月中旬 応援を求めてⅣ [第6章 和歌山営業篇]

 町の人々が「映画」というと、何か強い拒否反応があった・・・。

 ある人が教えてくれた。実は10年ほど前、町で映画撮影があった。市民はその作品を諸手を上げて応援。出資までして、毎晩、炊き出しもした。

 ところが、その作品は途中でストップ。撮影を中断。完成させることなく、町には何の説明もせず、撮影隊は撤収した。
 その後、撮影再開のための寄附を!との話があり、町では寄附を集める。

 だが、その後も撮影は再開されなかった。そんなことがあり、映画人への信頼は失われた。

 「映画人は信用できない。いい加減。二度と映画は御免だ」それ以来町で映画は禁句になっているというのだ・・・。(つづく)


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2003年7月中旬 応援を求めてⅢ [第6章 和歌山営業篇]

 その社長。帰り際にこう言った・・。

 「金集めてほしいんやったら、まず、ネクタイして出直して来いや?」

 しかし、監督業の人間がネクタイをしている方が怪しい。いかにも、業界を名乗る詐欺師に見えるだろう。だからこそジャケットは着ても、ネクタイまではしなかったのだ。

 監督業をする人々は或る意味でアーティスト。縛られるのを嫌う。サラリーマンの象徴であるネクタイをする人はほとんどいない。
 自分の思いを表現する仕事のものが、見せかけだけのフッションをするのは、心を偽るようなもの。僕もそう思っている。

 でも、そのこだわりも一般の人からは理解されないのだろう。その社長、あとで電話をくれた。

 「今、テレビに監督が出ている。せめて、そのくらいの服装で営業したほうがええ!」

 テレビをつけると、デザイナーズ・ブランドのスーツを着た男性がインタビューに答えていた。でも、その人は監督ではなく、俳優だった。
 
 その後もいろんな人を訪ねた。そして分かって来たことがある・・・。(つづく)


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2003年7月中旬 応援を求めてⅡ [第6章 和歌山営業篇]

 映画製作の応援を求めて、会長共に公的機関を訪ねた。

 映画で町をアピールしたい。大林映画で尾道は有名になり、多くの観光客が押し寄せた。この町でもそれをやりたい。会長は力説してくれた。が、いずれの担当者も難しい顔をしてこう言う。

 「そんな予算はない」「この不況で余裕がない」

 興味を持ってくれるが、自分の立場では何もできないという人。最初から「ややこしいことには一切関わりたくない・・」という態度の人。
 いろんな対応があったが、「何もできない」というのが共通した答えだった。

 次に民間の会社を訪ねる。そこの社長も難し顔をしたままだった。帰り際に言われる・・・。(つづく)


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